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EP21「終止符の行方」

 悪夢の塊は、終止符を打つべくARSの敷地内を疾走した。
装甲が外れた分、機動性が格段に向上している。

陽子「ちっ!優子、行くよ!」
優子「はい!
   セイヴァー部隊各機に通達、ターゲットはARS所属の機神に変更!」

 3機のセイヴァーが優子が乗っているであろうセイヴァーを置いて散開する。
アビューズの目はその一機一機を狂いなく捕捉していた。

静流「さぁ・・・来い。」

 先制攻撃を仕掛けたのは背後に回ったセイヴァーだった。両手で構えるアサルトライフルを連射する。
恐るべき脚力で跳ね上がり、弾丸はアビューズの遥か足元を通り過ぎた。

陽子「落ちろぉっ!」

 マタドールの両腕の鎖でつながれたハンマーが飛んでくる。急いでアビューズをハンマーの正面へと向かせる。
左手に装備したルージュのシールドを使い、ハンマーの直撃を防いだ。
 その途端、今度は真横に食らいついたセイヴァーのアサルトライフルから弾丸が放たれる。
右手のディスペリオンの大剣、ドラグーンを銃器へと変形させ、弾丸をビームの砲撃で薙ぎ払った。

優子「今度はこっちです!」

 真下からの反応。優子の乗るセイヴァーが先端が3つに分離している特殊な銃器を装備している。
それぞれの砲門から、曲がりくねったトリッキーな動きをするビームが放たれた。
アビューズを空中で回転させ、ルージュのシールドでそれを防ぐ。しかし一本がシールドを避け、左腕に貫通した。

静流「くっ!」

 幸い大きなダメージは無いようだが、間違いなく左手の反応速度が遅れる事となっただろう。
攻撃を防ぐ際、それを考慮に入れなければならない。
 そうこう考えている内に、両サイドに残りのセイヴァーが現れた。両機ともすでにライフルを構えている。

静流「アビューズ!」

 切り札に取っておこうと思っていたが、この際やむを得なかった。掛け声と共に、アビューズの全身から蒼い粒子が放たれる。
瞬時、高速移動を可能としたアビューズは両サイドのセイヴァーの持つライフルを粉々に粉砕した。

隊員A「は、早い!?」

 今思えば、アビューズのこの能力はブラッディモードの通過点だったのかもしれない。


 EP21「終止符の行方」


-同刻 ARS司令室-

暁「アビューズが消えた!?」

 ARSの窓から覗く戦闘の光景。瞬間移動したアビューズに、俺は声を上げていた。

剛士郎「あれはアビューズに本来備わっていた能力だ。
    スティルネスのワープゲートはあれを参考に作られている。」
佑作「あんなに凄い能力を持っているのに、なんで神崎さんは今まであれを使わなかったんですか?」
雪乃「きっと、神崎君にもいろいろ事情があるのよ。
   感情を表に出さないから、私達には分からないけど。」

 その時、司令室の通信端末が音を立てた。近くに居た有坂がその受話器を取る。
数十秒話をすると、有坂は俺の方を向いた。

雪乃「鳳覇君、エイオスのハッキングが解除されたわ!」
暁「すぐに行きます!」

 俺は司令室の奥、外に面した全面ガラス張りの壁についている窓を開けた。

暁「来い、エイオ――っ!?」

 急に胸に激痛が走った。エイオスをサモンするために掲げた手を下ろし、胸を押さえる。

輝咲「暁君!!」

 輝咲が駆け寄ってくる。その姿がぼやけて見える。一体何が起きているのか、思考が追いつかない。

-

雪乃「医療スタッフに連絡を入れます!」
剛士郎「あぁ、頼む。」

 椅子に深く腰掛け、ばつの悪そうな顔をする司令。原因不明の暁の激痛。
今までの事を整理していくと、俺はある一つの推測を立てることができた。

レドナ「推測だが、もしかしたら暁はサモンできない状況にあるのかもしれない。」
佑作「えぇっ!?」
雪乃「夜城君、根拠を説明してくれるかしら?」
レドナ「あぁ。」

 俺は軽く頷いた。

レドナ「この事件は、暁が何者か・・・たぶんアイツらの手先に射殺された事から始まる。
    アイツらも馬鹿じゃないとすれば、ドライヴァーはある意味不死の存在である事を知っているはずだ。
    そもそも、鳳覇 茜が向こうにいる時点で、これは確定要素となる。」
剛士郎「新防衛政府は、射殺することとは別の意図を持って、鳳覇君に接触したと?」
レドナ「そういうことになる。
    それもわざわざ暁だけ狙ったとなると、魔神機絡みの事だろう。
    あいつらは暁を射殺した後、何か手を加えたに違いない。」
雪乃「そんなこと、本当に可能かしら?」
レドナ「鳳覇 茜は未来にも渡っている。魔神機についての情報を手にするチャンスはいくらでもあった。
    それに、親という立場を利用して暁に軽々と接触することもできたしな。
    機神はハッキングでダウン、残す魔神機をドライヴァーから潰すのは最適な方法だ。」

 その時、医療スタッフが到着した。苦しむ暁を担架に乗せ、急いで部屋を出て行った。
榊もそれを追って、司令室の外へ出た。

かりん「ってことは、今は静流に任せるしかないってことね。」

 退屈そうに桜が言った。


 -同刻 ARS本部前-


静流「さすがに、慣れない馬には乗りづらいか・・・。」

 敵の数と性能、こちらのハンデといい、戦況は不利だった。数分経過したが、まだ一機も撃墜できていなかった。
それどころか、こちらの動きをだんだん読まれてきている気がする。
 鳳覇 茜が関わっているであろう機体だ。ハイインテリジェントAIでも搭載されているのだろう。

陽子「どうした、その程度?」

 マタドールの大きな足が、アビューズの腹部を踏みつけた。

隊員B「隊長、大型の戦艦らしき機影が映りました!」
優子「まだ隠し玉が・・・?」

 見上げる上空。広がる青空の中に、それははっきりと肉眼で確認する事ができた。
初めて目にする巨大な戦艦。50メートルはあるであろうヘカントケイルよりも遥かに巨大な戦艦だ。

エルゼ「ARSの諸君!我々リネクサスが手を貸そう!
    ギルバウス、砲撃開始!」

 戦艦から無数のビームが放たれる。

優子「各機散開!フォーメーションデルタで戦艦を落します!」
ナーザ「それは不可能だ、私がいる限りな。」

 ギルバウスを落としに向った4機のセイヴァーの前に、ヘカントケイルが現れた。

-

剛士郎「リネクサス・・・、このタイミングで介入してきたか。」
佑作「でも、味方してくれるんなら好都合じゃ?」
レドナ「いや、このタイミングでの介入はARSとリネクサスが協力関係であることを臭わせる。
    この戦闘の一部始終が一般メディアに回れば、俺たちが今までしてきた事は自作自演だと疑われるだろう。」
結衣「それって・・・。」
かりん「ま、それが事実だと思われちゃ、ARSは解散するしかなくなるってわけね。」
佑作「そ、そんな!
   俺たちは命賭けてリネクサスからこの世界を守ってきたってのに!」

 寺本が怒る気持ちは俺と同じだった。向こうのエルゼと言う指揮官、奴はそうとうな策士だ。

-

隊員A「も、もうこれ以上持ちません!脱出します!!」

 一機のセイヴァーが爆発した。

ナーザ「寄って集ってその程度か。」

 ヘカントケイルは、その特殊なバリアもあって傷一つ受けてなかった。
代わりにセイヴァー陣はズタボロだった。

優子「くっ、セイヴァーのエネルギー残量が・・・!」
陽子「優子!大丈夫!?」
ナーザ「次はそっちか。」

 ヘカントケイルの頭部から放たれる巨大なビームがマタドールを襲った。

陽子「ちぃっ!バリア展か――きゃぁぁぁっ!!」
優子「姉さん!!」

 瞬時に展開したマタドールのバリアが一瞬にして消え去る。コクピットを守ったマタドールの両腕が鉄くずと化した。

ナーザ「雑魚が。・・・ん?」

 空中に見える一つの機影。遠くでも分かるその煌き。太陽の光に当たって、金色の装甲が光っている。

静流「あれは・・・セイヴァー・・・?」

 金メッキのコーティングなど悪趣味なと思ったが、そのセイヴァーはヘカントケイルの目の前に降り立った。

ナーザ「同系機か。」
真「俺を・・・一緒にするなぁぁっ!!」

-

レドナ「な・・・!?」
結衣「た、高田君!」

 俺は開いた口が塞がらなかった。メッキコーティングのセイヴァーの搭乗者が高田 真という事実。
俺は俄かにどころか、全く信じられなかった。


-

ナーザ「ヘカントケイル、アーム展開。」
真「遅ぇんだよ!!」

 瞬時に金色のセイヴァーがヘカントケイルの後に回った。ギルバウスが放つ砲撃も軽々と回避している。

真「こいつが、俺のセイヴァー!オーラムの力だぁっ!!」

 オーラムと呼ばれた機体は、腰からかなりアンバランスな銃身の銃を取り出した。

ナーザ「そんな銃で、ヘカントケイルのバリアは破れるものか。」
真「バリアなんて、破るんじゃねぇ!!消すんだ!!」

 オーラムが銃のトリガーを引いた。

真「喰らえっ!サンクチュアリ・バーストォッ!!」

 銃の周囲がオレンジ色に光り、その光はオーラムの金メッキの装甲と連動して目が痛くなるほど輝いた。
そして銃口からはサンクチュアリ・ノヴァと同様の光が放たれた。
 光はヘカントケイルのバリアを侵食し、ヘカントケイルの後部ブースターを完全に消滅させた。

ナーザ「何!?ぐあぁぁっ!!」
静流「サンクチュアリ兵器・・・!?」
優子「高田、来てくれましたか!」
真「隊長!遅れてすんません!」

 オーラムが傷ついた優子のセイヴァーの所へ降り立つ。

真「おい、暁!!聞こえるかぁっ!!」

 次に何をするかと思えば、高田という男はARSの本部に向って叫びだした。

真「お前らの事、聞いたぞ!最初は嘘だって思ってたけど、今のではっきりしたぜ!
  リネクサスとグルだってな!」

-

レドナ「メディア云々のまえに、厄介な奴に情報が漏れたな・・・。」
剛士郎「今ここに鳳覇君がいないのは、不幸中の幸いかもしれん。」


 -同刻 新防衛政府本部-


隆昭「まさか、リネクサスが本当にARSを助けに来てくれたとは。
   正直、嘘からでた真という言葉を痛感しているよ。」
茜「そうですね。これでARSを押さえる最高の口実が出来ました。」
隆昭「そうと決まれば、すぐに東京へ行こう。
   機神を封じ、ドライヴァーから魔神機を封じられたARSは抵抗する術が無い。」


 -同刻 ギルバウス内部-


エルゼ「ナーザ、脱出は出来ているか?」
ナーザ「はい、パージしてそちらへ向っています。」
エルゼ「分かった。ギルバウスを海中へ。
    ナーザを回収した後、撤収する。」


 -PM00:29 ARS本部 司令室-


隆昭「初めまして。私が新防衛政府を勤めている石田 隆昭と申します。」

 石田と言った男は制服の内ポケットから名刺を取り出して、吉良司令に渡した。

剛士郎「ご丁寧にどうも。
    生憎、私は名刺を持ってませんでしてね。」
隆昭「そうですか。それはちょっと残念だ。」

 石田は周囲を見渡した。戦闘が終って数時間、俺たちはずっと司令室に閉じ込められていた。
無理もないだろう。さっき携帯のワンセグを使ってニュースを見たが、俺たちは完全に犯罪者扱いになっているらしい。
ボロボロになった神崎のアビューズは、向こうが回収。神崎は別の場所で監禁されているようだ。

隆昭「ところで、資料によると後一人ドライヴァーが足りないようですが?」

 その問いには誰も答えなかった。というより、向こうは答えを知っている。

隆昭「まぁ、いいでしょう。
   あなた達は、世界の平和を脅かす存在の一部としてこれから扱われます。
   しかし、これを見据えてか未成年者が多い。」

 俺たちの方を向いた。今思えば、神崎以外は全員未成年だ。

隆昭「さすがに我々は法の下に働く者として、法には従う。
   君達ドライヴァー諸君については無罪としよう。
   明日からは普通の生活に戻りなさい。」
レドナ「ドライヴァーだけか?」

 俺は相手の言葉の裏を読んだ。今の発言では、イクスドライヴァーは含まれないことになる。
それに榊もそうだ。暁と榊に関しては捕らえるつもりでいるのだろう。

隆昭「おっと、鋭いね。もちろん、ドライヴァーだけさ。
   鳳覇 暁と榊 輝咲に関しては、最重要危険人物として扱わせていただくよ。」
結衣「ま、待ってください!
   それこそ法を破ってませんか!?」
隆昭「ちょっと我々が話を聞くだけだ。
   監禁や拷問などはしないよ。」

 微笑んで言ってはいるものの、信用は無かった。

隆昭「さて、それでは吉良司令。少し我々に付き合ってもらおう。
   どうやら、地下ハンガーをロックしているようですしな。」
剛士郎「あぁ、分かった。
    有坂君、一緒に来てくれるかい?」
雪乃「はい。」

 石田は吉良司令と有坂副司令を連れて、司令室から出た。

隆昭「おっと、君達にはもう少しここに居てもらうよ。
   すぐに見張りが来るから、変な真似はしないように。」

 それを言い残すと、司令室のドアがしまった。

佑作「あ~~っ、ったく!!」
かりん「マジありえないっつーの。」

 寺本と桜が脱力したかのように倒れこんだ。

結衣「夜城君、鳳覇君・・・どうなっちゃうんだろう・・・。」
レドナ「掴まる心配はしなくていい。暁は今ここにいない。」


 -同刻 ARS地下脱出用通路-


淳「いやぁ、それにしてもここの通路を通るなんてね。」

 少し楽しそうに佐久間が言った。

輝咲「この先はどこに出るんですか?」
淳「ARS本部の裏山に出るんだ。
  ま、裏山っていっても中身はARS第二基地なんだけどね。」

 ARSとは凄い所なんだとつくづく思う。

淳「とりあえず、鳳覇君が本調子になるまでそこで待機しておこう。
  夜城君からの連絡によると、鳳覇君と榊君が敵の目的の一つでもあるらしいし。」
暁「俺はもう大丈夫!
  今すぐにでもエイオス呼んで、あいつらボコボコに・・・っ。」
輝咲「暁君!」

 強がってはみたものの、やはりまだサモンした時からの痛みが残る。

淳「そんな調子じゃ、到底今の新防衛政府の精鋭には勝てっこない。
  有坂さんから情報を受け取ったけど、敵はサンクチュアリ兵器も完成させたらしい。」
暁「っ!?」
輝咲「そんな・・・!」
淳「既にリネクサスのヘカントケイルも落とされている。
  果たしてエイオス一機でどこまでいけるか。」

 サンクチュアリ兵器。そこに存在する何もかもを消滅させる禁断の力。
どんな兵器なのかは知らない。でも、その兵器には御袋が協力しているに違いない。

暁「御袋・・・っ。」
淳「生憎、今のところサンクチュアリ兵器に対抗できるのはディスペリオンだけだ。
  それに茜さんが技術協力をしているとすれば、それも想定の範囲内だろう。」

 思い空気が流れた。相手はこちらの手の内を全て知っている。
唯一の打開策であろう魔神機も、俺を通じて封じられている。こんなアウェイな状況は初めてだ。


 -PM0:38 ARS本部地下 機神・疑似機神ハンガー-


隆昭「おぉ・・・。機神たちがこうも並ぶと、絶景だな。」
剛士郎「そうですか。ホメ言葉として受け取っておきますか。」

 石田はずらりと並ぶ機神・疑似機神に興味心身のようだった。
ゆっくりと歩きながら、20m以上の巨体を観察している。

隆昭「あれが魔神機、エイオス。」

 ハンガーの奥に眠る、白銀の翼竜へと近づいた。

剛士郎「残念ながら、我々にも魔神機について詳しい事は分かりません。」
隆昭「それはそれは。実に興味をそそられますね。」

 その時、機神・疑似機神搬入用の奥のゲートが開いた。

隆昭「いちいち本部に持って帰るのは面倒なので、彼らもここに置かせてもらいます。」

 傷ついたセイヴァーとマタドール、それに金色のセイヴァーまでもがハンガーに入ってきた。

隆昭「許可を取るまでもありませんでしたね。
   本日付でARSは解散、本部は我々新防衛政府の物となります。」
剛士郎「いやはや、名残惜しいですな。ここと別れるのも。」
雪乃「司令!本当にここを渡すおつもりですか!?」

 有坂君が困惑の顔をして、私を怒鳴りつけた。

剛士郎「有坂君、これは仕方の無い事なんだ。」
雪乃「しかし・・・!!」
隆昭「副司令殿、すでに決定事項です。
   抗うのであれば、然るべき処置を取らせていただくことになります。」

 私も本音を言うと、有坂君と同じ気持ちだ。しかし今は従うしかない。
ここで抗えば、ドライヴァーの彼らが危険にさらされるかもしれない。それだけは避けたかった。
まだ幼い子供達を戦争に巻き込んでしまった償いと思えば、我々の独房行きも軽い物だ。


 -2日後 PM00:14 福岡県 陽華高校屋上-

 ARSが取り押さえられて2日が経った。俺たちにはこの48時間は重苦しい時間でしかなかった。
新防衛政府から言われた通り、俺たちは普通の生活へと戻った。正確に言えば、戻らされただ。

結衣「今日はどうだった?」

 屋上に出てきた俺を見るなり、先に来ていた鈴山が声をかけてきた。
 俺たちはあれから昼休みは屋上で周囲の変化について報告し合っていた。
桜や寺本ともメールで何度もやり取りしている。神崎については政府に捕まっているそうだ。

レドナ「いや、何も。
    まだ高田も学校に来ていない。」
結衣「そっか・・・。」
レドナ「いまやアイツも政府の英雄気取りだからな。
    学校も高田の欠席の件については不問としているらしい。」

 鈴山が座って寄りかかっているフェンスに俺も寄りかかり、左手にぶら下げている袋をあさった。
さっき購買部で買ったアンパンを取り出し、そのの封を破った。

結衣「夜城君は、何とも無い?」
レドナ「たぶん鈴山と同じ気持ちさ。」

 意識はしていなかったが、2日も皆の顔を見ていないとなると変な気持ちだった。

結衣「もう私たち、皆に会えないのかな・・・。」
レドナ「そんな消極的になんなよ。きっとチャンスは来る。」


 -同刻 ARS裏本部-


輝咲「暁君、お昼出来たよ。」
暁「もうそんな時間か・・・。」

 狭い個室でゴロゴロしていると、輝咲が昼食の時を告げに来た。
この2日間、ずっと俺たちはこの裏本部に滞在していた。一歩も外に出る事がなかったので、時間感覚が狂い始めていた。
というよりも、2日しか経っていないという事実の方が驚愕だった。

暁「一体いつまでここに居りゃいいんだろうな?」
輝咲「そうだね・・・。皆元気にしてるかな。」

 一応山中であるため、携帯のアンテナは全滅していた。それよりこういう事態を想定してないので充電機を持ってきていない。
温存してきたつもりだが、電池も後一本となった。

暁「せめて、外部と電話でも出来たらな~。」
淳「残念だけど、それはできない。」

 どこから湧いて出たのか、食堂へと向う俺と輝咲の真後ろに佐久間が居た。

暁「うわぁっ!お、脅かさないでくださいよ・・・。」
淳「ご~めんごめん。
  でも、その電波をもとにここが見つかったら一巻の終わりだ。
  少なくとも、あと数日は待っててくれ。」
輝咲「何か策があるんですか?」
淳「はっはっは~、それは秘密だぁっ!
  さ~て、ご飯だご飯!」

 佐久間は鼻歌交じりにスキップして、俺たちを抜いて食堂へと向った。

暁「あの機嫌じゃ、何かありそうだな。」
輝咲「そうだね。」


 -PM04:33 陽華高校 正門-

 ホームルームが終り、俺はスタスタと自宅へ戻ろうとしていた。駐輪場まで行き、自分の自転車を出す。
何だかARSに行ってはいけない事が不安だった。

レドナ「全く、どうしろっていうんだ・・・。」

 鈴山にはチャンスがあるだの言ってしまったが、実際チャンスなんてのは訪れるのだろうか。
そんな事を考えながら、俺は自転車に跨っり、正門を突破した。

結衣「夜城く~ん!」
レドナ「ん?」

 突然鈴山に呼び止められた。ブレーキをかけ、振り返る。そこには鈴山と高田の妹がいた。

レドナ「どうしたんだ?妹さんまで。」
恵奈「夜城さん、実は・・・。」

 恵奈は制服のスカートのポケットからピンク色の携帯を取り出した。パッパと操作すると俺にその画面を見せた。
送り主は真からのメールだった。

レドナ「鳳覇 暁は危険だ。恵奈を危険な目にあわせようとしているかもしれない。
    暁を見かけたらすぐに俺に連絡してくれ。絶対に近づくなよ。
    それと鈴山 結衣と夜城 レドナにも近づくな・・・か。」
恵奈「理由聞いても答えてくれないし、それに結衣ちゃんも夜城さんも・・・。」

 泣き出しそうな恵奈を、鈴山が抱きしめた。

結衣「恵奈ちゃん・・・、それでわざわざここまで。」
レドナ「恵奈、俺たちの事を信じてくれるか?」

 俺は肩膝をついてしゃがんで、恵奈の目線の高さにあわせる。鈴山の胸の中で、コクンと頷いた。

レドナ「鈴山、恵奈に真実を教えよう。もう言い訳は出来ない。」
結衣「そうだね・・・。ここじゃ人目につくから、どこか別の場所に。」
小夜「その・・・、よければ私もその話、聞かせてくれる?」

 振り返ると、そこには岸田の姿があった。

小夜「ごめんね、盗み聞きするつもりはなかったんだけど。
   私にも2人に近づくなってメールが着たから・・・真相が知りたくて。」
結衣「夜城君、小夜ちゃんも知っておかないといけないと思う。」
レドナ「あぁ、そうだな。」

 その時、風が大きく変化した。真上からくる轟音。周囲の人物も皆、空を見上げた。

真「小夜!恵奈!そいつらから離れろ!!」

 茜色の空をバックに、金色の光を放つセイヴァーが降りてきた。

小夜「真!?」
レドナ「3人は逃げろ!ここは俺が足止めする!」
結衣「でも、ディスペリオンは・・・!」

 確かに、ハッキングでまだダウンしているかもしれない。だが、今この状況を打破する方法は一つしかなかった。

レドナ「分からない!でも、アイツならこうするさ!」

 十分窮地に陥っている状況。俺は手を空にかざす。

レドナ「現れろっ!ディスペリオンッ!!」

 夕焼け空に現れる円陣。その中から降り立つ漆黒の竜。金色のセイヴァーに掴みかかり、そのまま真上に放り投げた。
その後急降下し、俺の前に手を差し出した。

レドナ「鈴山、2人を頼む!」
結衣「うん、分かった!」

 ディスペリオンの手にのると、そのままコクピットへと持っていかれた。突き出た胸部の中にある椅子にすわる。
コクピットが内部に収納され、俺はディスペリオンと一体化した。

レドナ「真!何をする!」
真「それはこっちのセリフだぜ!どうせ小夜と恵奈も洗脳しようとしてんだろ!」
レドナ「馬鹿な考えはやめろ!!」
真「うるせぇっ!!」

 金色のセイヴァーがライフルを構え、発砲する。空中で回避しようとしたが、すぐに止めた。
後には学校、それに下校途中の逃げ惑う生徒が沢山いる。
 ライフル一発の威力は、あまり大きくなかったが、次々に装甲がへこんでいくのが分かる。

レドナ「目覚ませ!!こんな場所で戦闘するなんて・・・!」

 セイヴァーはサンクチュアリブラスターを構えた。

真「終りだぁぁっ!!」
レドナ「間に合えっ!ノヴァ・コンバーターッ!」

 ディスペリオンのスカートが展開し、ノヴァを打ち消す光を放つ。

真「サンクチュアリ・ブラスターッ!!」

 物凄い光が銃口から放たれる。その光はディスペリオンを飲み込もうとする。
だが、こちらも放つ蒼い光がそれを相殺する・・・はずであった。

レドナ「ぐああぁぁぁぁああっ!!!」

 蒼い光は無力と化し、サンクチュアリ・ブラスターの攻撃はディスペリオンを直撃した。
咄嗟にディスペリオンの両腕を前に出し、ガードする。
 ブラスターの攻撃が終った後には、ディスペリオンの肩から下の腕が跡形も無く消滅していた。
ノヴァ・コンバーターを形成するスカートもひしゃげて使い物にならなくなっていた。
 戦闘力を失ったディスペリオンは、学校を飛び越え、グラウンドに突っ込んだ。
 霞む目で周囲を見たが、どうやら避難は完了していたようだ。一安心する時間も与えず、金色のセイヴァーがモニターに映った。
ディスペリオンの頭を掴み、無理やり持ち上げる。

真「分かったか、これが俺の本気なんだ。」
レドナ「機械性能に頼るだけの正義が、お前の本気か・・・っ。」
真「何とでも言え!もうお前を外に出しはしない。」

 セイヴァーはディスペリオンを抱えると、そのままどこかへ飛び立った。


 -同刻 陽華高校付近-

結衣「夜城君・・・。」
恵奈「結衣ちゃん、本当に今のが真なの・・・?」

 泣きじゃくる恵奈ちゃんに、私は何と声を掛けていいのか分からなかった。

小夜「あんなの真じゃないよ・・・、絶対に何かおかしいよ。」

 小夜ちゃんも、今にも泣き出しそうな顔をする。泣きたいのは私もそうだった。
一体何が起こっているのか、教えて欲しかった。


 -同刻 ARS裏本部-

暁「レドナが!?」

 俺は、何と無くつけていたニュース番組を見て驚愕の声を上げていた。
 臨時ニュースで、陽華高校上空で戦闘を行った旧ARSの氾濫分子を拘束と書かれてある。
画面に映るのは漆黒の機体、ディスペリオンだった。

輝咲「そんな・・・何で・・・。」
暁「・・・くそっ、防衛政府どもめ・・・っ。」

 同じく画面に映る金色の機体、俺はただそれを睨む事しかできなかった。


 -EP21 END-


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